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活躍の場を広げる「産業用無人ヘリコプター」 Yamaha Motor Newsletter (October 11, 2019 No. 75)

ニュース   •   2019年10月11日 11:00 JST

遠隔操作、あるいは自動航行できるUAV=Unmanned Aerial Vehicleにカメラや観測機器などを取り付け、空中から写真や動画を撮影する、地表や建造物の様子を監視・観測する、物資を運搬する……。こうした商用ドローンに関わるビジネスが、2015年頃から世界的に急成長を見せており、今後いっそうの市場拡大が見込まれています。
その流れに先駆け、1987年に産業用無人ヘリコプターを実用化したヤマハ発動機は、農業の薬剤散布などで30年以上の実績を重ねながら、熟成・進化した製品と現場で培ったノウハウを幅広い分野のソリューションに応用。現在も、ドローンビジネスの追い風を受け、さらなる利用拡大に向けた積極的な取り組みを続けています。

 

独自性:農業で培った大きな搭載量、確かな性能と信頼性

 現在、商用ドローンで多く使われている機体のタイプは、電動モーター駆動の水平回転翼を複数備えたマルチローター。両手に収まるコンパクトなものから全長・全幅2m前後のものまでさまざまなサイズの製品がありますが、ヤマハ発動機の産業用無人ヘリコプター(無人ヘリ)は全長約3.5m、ガソリンエンジン駆動のシングルローター式で、大きな積載力と航続性能が大きな特徴です。
 ヤマハが無人ヘリの開発に着手したのは1983年、農林水産省の外郭団体から遠隔操作で農業用の薬剤を空中散布する装置を依頼されたことがきっかけでした。当時の日本ではすでに農家の高齢化・担い手不足が進行しており、その支援策として、大きな負担を伴う夏の病害虫防除(薬剤散布)作業を軽減・省力化することが求められたのです。
 しかし、最初に取り組んだ二重反転ローター式では操縦性や安定性、重量などの問題が解決できず、ラジコン模型で一般的に使われていたシングルローター式へ計画を変更。1987年に完成した第1号モデル「R-50」で初めて、液剤10Lを搭載し、1haの圃場を10〜15分で散布する性能を実現しました。これにより、人間が薬剤ポンプを背負って圃場を歩きながら散布する従来の方法よりも16倍早く、楽に防除作業ができるようになったのです。
 その後ヤマハは、1haあたり液剤8L・10分を基本としながら、より広い圃場や隣接する複数の圃場を効率よく散布できるよう機体のモデルチェンジを重ね、薬剤・燃料の搭載量をアップ。現在の主力機「FAZER R」は液剤32Lを搭載し、1回/約25分の飛行で「R-50」の4倍、4haの散布を可能にしました。また、メインローターから生じる強力なダウンウォッシュを利用して薬剤を均一に拡散させ、作物の根元までしっかり届ける散布装置にも独自の工夫を継続。ただ散布するだけでなく、薬剤をいかに有効に、効率よく散布できるか。実用性・品質へのこだわりを、ヤマハならではの経験とノウハウが支えています。

高効率を考えたヤマハの産業用無人ヘリコプター。ローターのダウンウォッシュ(吹き降ろし風)効果により、適量の薬剤を均一に、作物の根元まで散布できる

 

拡張性:電子制御、自動航行の導入で広がる用途

 ヤマハ無人ヘリの事業は、今も農業が基盤。日本では数多くの無人ヘリが活躍しており、操縦資格所有者も1万人を超えています。これほど数多く普及した要因のひとつは、機体の扱いやすさ。1995年、光ファイバージャイロを利用した画期的な姿勢制御装置「YACS=Yamaha Attitude Control System」を開発・導入したことで、習得が難しかった無人ヘリの操縦が容易になり、安全性向上にも大きく貢献しました。
 さらに1997年発売の「RMAX」以降、GPSや各種センサーなどの先進技術を積極的に取り入れることにより、電子制御システムが飛躍的に進化。細かな操縦操作の一部を自動化・簡易化するとともに、予め設定したプログラムで自動航行する技術の開発もスタート。2000年には、北海道・有珠山の噴火観測を初めて可視外・自動航行によって実施し、大きな注目を集めました。
 これをきっかけにヤマハは、自動航行型無人ヘリで三宅島、桜島、新燃岳、口永良部島、西之島などの火山活動やさまざまな災害被災地の観測・計測、動画・画像撮影を実施。多くの実績とノウハウを積み重ねながら幅広い分野のソリューション業務拡大に取り組む一方、より多彩な用途に対応できる新型プラットフォーム機として、最大積載量35kg、最大高度2,800m、航続距離90kmの性能を持つ「FAZER R G2」を導入(2016年)しました。
 また、こうした姿勢制御装置や速度制御装置、自動航行システムの開発が、世界に先駆けて農業や災害対応などの分野で無人ヘリの活用を促したとして、2019年4月、当社の技術者を含めた開発者らが日本の文部科学大臣表彰・科学技術賞 開発部門を受賞しています。

有人機では危険で立入れない火口の付近にも接近し、リアルタイムで映像・画像を送ることができる。写真は西之島火山の噴火観測の様子 (2015年)

 

開拓:無人ヘリの強みを活かした用途で事業拡大

 近年の商用ドローン市場で特に成長が著しいのは、機体・関連機器の販売よりも、薬剤散布や撮影、計測・観測、物流などのサービス領域。ヤマハも、農業用に機体販売を継続する一方、それ以外の分野では専門のソリューションチームを構成し、無人ヘリを使ったさまざまなサービスへの取り組みを始めています。
 そのひとつが、工事用資機材の運搬。例えば電力会社が行う送電線の工事では、車両で資材を運び込むことが困難な山中に鉄塔を建設・メンテナンスする、といった事案が多くあります。そこで自動航行が可能な「FAZER R G2」を使い、麓近くの資材集積場から山頂の現場まで、森林を越えて必要な資材を送り届ける実証実験を2017年から実施し、1回の飛行で最大26.5kg、1日あたり672kgの運搬を実現。その後、さらに運搬効率や安全性の向上・強化をはかり、2019年から本格的な運用を開始しました。
 また現在、新しく事業化をめざしているのが森林計測サービス。日本は国土の70%近くが森林で占められており、人々は古くから家屋や家財・道具など身近なところに木材を使い、親しんできました。ところが民間の森林所有者は小規模・分散的で、世代交代や長期的な林業の低迷などもあり、適切な手入れや植林が行われていないところも増えています。そこで政府は、新たな法律に基づく森林経営管理制度を整備。正確な林地台帳を元にして責任の明確化をはかり、管理できない森林については能力のある経営者に集約したり、自治体が管理することで森林を適正に維持し、価値を高める取り組みに力を注いでいます。
 そのためにまず必要なのは、広い森林のなかで土地の境界がどうなっているのか、どんな木がどのくらいあるかなど状況を詳しく正確に把握すること。近年急速に普及が進むリモートセンシング装置・LiDARを航空機やドローンに搭載、あるいは人間が背負って地上を歩きながらレーザーを照射し、物体に反射した点のデータを3D画像に再現する技術が導入され、航空写真や人力に頼っていた作業の効率化が可能になりました。
 それに対してヤマハは、「1秒間で約60万ポイントのレーザー照射ができるLiDAR機器を、自動航行型FAZER R G2に搭載。低速飛行しながら有人航空機の20倍、林内状況まで把握できる独自の高密度計測を実現しました。しかも無着陸で他社・電動マルチローターの約3倍、100分間の飛行が可能なため、広範囲の森林を効率よく計測でき、単位面積あたりのコストも低減できるメリットがあります」と話すのは、新規事業を推進するセクションの企画部長。数年前から実験を繰り返し、2018年に愛媛県の林材業振興に携わる団体の依頼を受け、森林管理区分を判別するシステムの開発業務を他社との協業で実施しました。
 続いて2019年8月には、富士山周辺に1万2,000haの森林を抱える富士市などと共同で森林状況調査の実証実験を行い、「データ分析まではまだ手が届きませんが、現在、必要なデータを計測して提供する段階には十分達したと考えています。来年度新たな事業としてスタートできるよう、自治体などに具体的なプランを提案していく予定です」
 農業で薬剤の散布効率、散布品質にこだわるように、森林状況調査でもデータ密度の高さ、計測効率にこだわり、利用者に期待以上の価値と満足を提供する。そして、美しい森林環境と豊かな資源の永続的な維持に貢献すること。それが「感動創造企業」をめざすヤマハ発動機のビジネススタイルなのです。

電波が届かないところでも遠隔操作の可能な衛星通信装置、自動航行システムを備えた「FAZER R G2」に高性能LiDARを搭載。森林の内部まで高密度に計測できる

 

FAZER R G2紹介動画

https://www.yamaha-motor.co.jp/ums/solution/fazer_r_g2.html
https://www.youtube.com/watch?v=hmqjRiZJsos

 

Message from the Editor

 電動マルチローターを遥かにしのぐ積載性、航続性能が特徴のヤマハ産業用無人ヘリコプター。アメリカで開催された「CES 2019」では、そのアドバンテージをさらに拡大する次世代コンセプトモデルを発表・展示しました。また、前回No.74でご紹介したアフリカ事業の一環として、ケニアの産業用ドローンサービス企業と連携した共同実証実験が2019年12月よりスタートします。ぜひご注目ください。

当社とケニアのAstral Aerial Solutionsによる協定を、TICAD7で締結

堀江直人

 

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