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バイオメディカル事業 Yamaha Motor Monthly Newsletter(Oct.16, 2017 No.58)

ニュース   •   2017年10月16日 16:00 JST

サーフェスマウンターの超高速・高精度なピック&プレース技術を応用し、より微細で壊れやすい細胞(塊)に合わせて新開発した吸引吐出技術や撮像・画像処理技術を搭載した「CELL HANDLER™」。第一号が納入された福島県立医科大学にて

1955年、日本楽器製造(現在のヤマハ株式会社)からモーターサイクル事業を引き継いで創立したヤマハ発動機は、続いて船外機・ボートを中心とするマリン事業にも進出。さらにこれら製品の核となる小型エンジン技術、車体・艇体技術を活かした事業の多軸化に取り組む一方、自社生産ラインの自動化をはかるために開発した産業用ロボットの事業化にも成功。そこから電子制御技術を発展させ、事業領域を超えた新製品開発や新事業開拓に役立てています。2017年9月に発表した「CELL HANDLER(セルハンドラー)™」もそのひとつで、電子基板の生産に使われるサーフェスマウンターの技術を応用し、バイオメディカル分野に進出する最初の製品となりました。今回は、その画期的な装置の概要と今後の期待についてご紹介します。
※「CELL HANDLER™」は研究用機器であり、医療機器ではありません。 2017年10月16日現在、日本国内のみの販売です。

困難な手作業を自動化する:発想
 「CELL HANDLER™」とは、例えばがんの治療薬などを創るプロセスで、もっとも手間や時間がかかるスクリーニング作業のハイスループット化に貢献する装置です。
 スクリーニングとは数百万種類の化合物から、試験を繰り返しながら、徐々に有望なものを絞り込んでいく作業。がん組織から取った細胞の培養液に、1種類ずつ成分の異なる化合物を加え、その反応を確かめるのですが、従来こうした試験には扱いやすさやコスト、時間の面から、器の上で平面的に培養(2D培養)した株化細胞が多く使われてきました。
 しかし、株化細胞は生体とまったくかけ離れた性質に変化しているため、マウスなどの試験を経なければ人間の臨床試験に進むことができず、成功率が低いという課題を抱えています。これを解消するためには、ヒト由来の細胞を生体に近い条件で培養(3D培養)した細胞塊を使うことが重要ですが、溶液中を漂う細胞塊はきわめて小さく、柔らかで、扱いにくいのが難点。また、すべて手作業なので多大な時間とコストがかかり、普及の妨げとなっていました。
 そこでヤマハ発動機は、この細胞塊のハンドリングに特化。研究者が顕微鏡を覗きながら試験に適した細胞塊を選び、ピペットで吸い上げ、試験用プレートの細かく仕切られたくぼみ(ウェル)に1個ずつ移す作業と、各ウェル内の細胞塊を撮像・データ化する工程を短時間・高精度に自動化する「CELL HANDLER™」を開発したのです。

電子部品を細胞に置き換える:技術開発
 
開発のきっかけは2010年、電気製品などの組立ラインを構成する産業用ロボットや電子基板の生産に使われるサーフェスマウンターを扱うIM事業部が行った、新事業のアイデアコンテストでした。その頃、iPS細胞の製造方法発見を発端とする医療研究やビジネスに社会的な注目が集まっており、寄せられたアイデアのひとつに、IM独自の技術を“人の生命を守る”ために役立てたいという提案があったのです。
 そのなかで、X軸・Y軸の座標内で点から点へ正確かつ迅速にヘッドを動かし、先端のノズルで0.4mm以下の極小チップ(電子部品のひとつ)を吸い上げ、基板上の所定の位置へ±0.05mmの誤差もなく配置するサーフェスマウンターの可能性に着目。「チップを細胞、基板を試験用プレートに置き換えることで、手作業しかできなかった細胞塊のハンドリングを機械化・自動化する製品」へと絞り込んでいったのです。
 「しかし、細胞塊のサイズは電子部品の極小チップよりもっと小さく、10分の1から3分の1ほどしかありません。しかも、溶液中をふわふわ漂う複数の細胞塊から試験に適したものだけを選び出し、傷つけないよう正確に、優しくピックアップするのは、いかに精密な機械でも至難の業でした」と、新事業開発本部・MDB開発部長。
 そこでヤマハは、グリッド構造の「Precision Chamber(プレシジョンチャンバー)TM」を独自開発。溶液中の細胞塊を分散させながらマス目の底に沈め、電子部品の供給パレットと同様、1個ずつピックアップできるよう整列させる工夫を凝らしました。研究者は、チャンバー内の細胞塊を映像で確認。条件に合うものだけをタッチパネルで選択し、機械学習(AI)機能で選択基準を学習させれば自動選択も可能です。
 またチャンバーに並んだ細胞塊を正確に優しくピックアップするため、精密で注射器のような構造の「Precision Tip(プレシジョンチップ)TM」を新開発。それを高速・高精度ヘッドの先端に8本装着して、グリッドの1マスずつ細胞塊を溶液ごと吸い上げ、試験用プレートに移していきます。そのプレートは1枚384ウェルに細かく区分され、手作業のピペットでは正確に滴下することさえ困難ですが、「CELL HANDLER™」は8本のチップが同時に、一瞬で作業を完了してしまいます。
  このピック&プレース作業を48往復し、384ウェルのプレートがいっぱいになったところで細胞塊それぞれの形状や色がわかるよう写真に撮り、面積などを測定してデータ化します。細胞塊の選択からここまで、「CELL HANDLER™」の所用時間は30分以下、正確性は99%以上。「手作業だと384ウェルは細密すぎて扱えないので、96ウェルのプレートを使い、同じ作業量として4回分の所用時間を比べると、15分の1以下に短縮できる計算です」(MDB開発部長)。

最初の一歩、そして未来へ:期待感
 
「CELL HANDLER™」の開発で、最初の試作機が完成したのは2013年。その評価を国内外の医療機関に依頼し、翌年からハイスループットモデルで信頼性向上をはかりながら、著名な大学・研究機関とがん治療などの共同研究を進め、創薬、再生医療への応用も考慮した事業化の可能性を探ってきました。
 そして2017年8月、公立大学法人 福島県立医科大学に製品第一号を納入。その後も年間5台の販売をめざし、さまざまなアプローチを行っています。当面の主なターゲットは創薬支援の分野。新薬を創るプロセスで細胞塊を使って成功率が高まり、しかもスクリーニングのスループットが上がれば、生産性向上とコストダウンに大きく役立つからです。
 それだけではありません。「CELL HANDLER™はより生体に近い条件で、より効率よく試験ができないかという研究者の要望に応える機械。創薬の毒性検査、がん研究の細胞パネル試験など広く応用の可能性を探り、新たなソリューションを提供していきたいですね」(MDB開発部長)。
 ギネス記録によると、2017年9月現在で世界の最高齢者は117歳。過去に遡れば122歳という記録も残されていますが、例えば世界屈指の長寿国・日本では男性の4人に1人、女性の6人に1人ががんで亡くなっています。もちろん、ほかにも克服困難な病気が世界中を脅かしており、身体にさまざまな障害を持つ人々も多くいます。こうした医療の課題解決に少しでも貢献できれば……。それが新事業に臨むヤマハの願いです。

「CELL HANDLER™」の主な仕事は、従来手作業であった細胞(塊)の選択と移動の自動化

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